薬草栽培

山菜のように滋味深く力強い薬草をつくりたい
薬草は元々野山に自生するものを採取して使っていました。
しかし毎年計画的に必要量を確保するため、野菜のように畑で栽培できるものを増やしてきました。
漢方薬用の薬草には使える農薬、除草薬などが品種ごとに規定されております。
里山の恵みサービスは野山に自生する山菜のように力強い薬草をつくりたいので、敢えて自然栽培で育てる方法を研究しています。
薬草を使った3つの取り組み
①製薬会社に生薬(漢方薬の原料)として納品
2023年より県内の製薬会社向けに気候と土壌と自分の技量にあう薬草の栽培に取り組んでいますが、製薬会社向けの薬草はロットサイズが大きく、単独でまとめることはとても難しくリスクも大きいです。
そこで薬草栽培と収穫後の調整(洗浄、乾燥など納品できる状態にすること)の仲間づくりを並行して行なっています。
2025年はある薬草で初出荷を予定しています。
生薬生産の一番の障害は、薬草は米や野菜より採算性が低い傾向にあることです。
薬価基準で漢方薬の販売価格が頭打ちになる構造により、買取価格は費用を反映させ難いです。
この問題に対応するため、野心的な挑戦(反収100万円を目指した)混植粗放栽培の試験を行っています。
費用(農薬、肥料)をなくし、山菜のように有効成分が濃くなることを期待して、自然栽培で薬草を生産する方法を研究しています。
②薬事法対象外の薬草やハーブの生産
薬と毒は表裏一体です。
薬効の強い薬草は使い方を間違えると健康に害をなす可能性があるので、加工・販売するには厳密な資格(薬事法)が必要です。
その一方、薬事法対象外の薬草の部位やハーブもあります。
それらを自然栽培で育て、飲みやすくて美味しいお茶などに加工して提供することを目指しています。
③オリジナルの加工商品やサービス
薬草が特別なものではなく、気が付いたら生活に溶け込んでいるような世界を目指してオリジナル商品、サービスを開発中です。
ここが一番面白いのですが、松本薬草研究会の力を借りて楽しく取り組んでいます。
考えていること
- 栽培が極めて困難で市場に出回っていないが、花がとても綺麗な薬草の鉢植えとその活用のセット
- 薬湯
- 薬草お菓子、薬草おつまみなど
育てている薬草の種類
2023年~2024年にかけて15種以上の薬草を試験栽培し、気候、土壌、自分の技量に合う薬草を選別しました。
主な栽培研究、活用研究対象は下記の通りです。
薬草
- アマチャ
- ジオウ
- センブリ
- トウキ
- カノコソウ(2025年~)
薬用ハーブ
- エキナセア(プルプレア種)
- ホーリーバジル(ラマトゥルシー種)
そのほか、県内薬草研究会用に種の継承を行なっています。
- ベニバナ
- ハシリドコロ
薬草栽培に影響を与えた言葉、考え方
神農本草経(しんのうほうぞうきょう)

伊那薬草研究会にて、小谷宗司先生から初めて中国最古の薬学書「神農本草経」について聞き、感動したことが薬草栽培を始めるきっかけになりました。
医食同源
「医食同源」という言葉自体は、中国の薬食同源思想から着想を得て、近年日本でできた造語です。本来は「薬食同源」という中国食養の精神を説明したものです。
食療
中国古代のこんな逸話があります。
中国古代には食事治療専門医がいたという。
『周礼』天官に定める医師四種の筆頭の食医がそれで、王の食事を調理するのに「春に酸を多く、夏に苦を多く、秋に辛を多く、冬に鹹を多く、調えるに甘滑」と五味を重視する。
食医に次ぐ疾医(内科医)にも「五味・五穀・五薬を以てその病を養う」とある。これに次ぐ瘍医(外科医)では「五毒を以てこれを攻め、五気を以てこれを養い、五薬を以てこれを療し、五味を以てこれを節す」で、やはり五味をいう。
病院に入院すると病院食といって食事が出る。これはカロリーとか栄養素を計算した食事であって、病気の治療を目的とするものではない。
治療は医師の処方箋に基づいた医薬品によって治療がなされます。「食療」とはこの二つを合わせた物を指します。
現在の医師と同じ知識と資格を有するものだけが作れる料理だったわけです。
中国において、病気を治療する第一位の手段は、漢方薬等の湯液や針灸ではなく、この「食療」が優先されていた。
未病

中医学の聖典『金匱要略』(きんきようりゃく)の冒頭には、「上工は未病を治す」という言葉があります。
病気はかかってから治すのではなく、未だ病んでいない不調の状態で治すのが非常に効果的です。
山菜のほとんどが薬用植物

野菜の流通が現在ほど盛んでなかった頃、食用となる野生の植物は貴重な総菜でした。山菜として利用されるものは、ほとんどが薬用植物に含まれます。
春の山菜、秋の果実の実りやキノコの時期になれば家族総出で山に出かけるのは年間行事の一つにもなっていましたが、季節の山菜を摂ることは「未病」に対して実に理にかなっています。
素人発想ですが、山菜のように滋味深い薬草をつくってみたい。薬草を自然栽培で作るのは、そのためです。
自然栽培について
自然栽培とは
自然栽培 ≠ 肥料・農薬を使わない農業
自然栽培はちょっと分かりにくい概念です。「自然な栽培をする農業」が一番素直な読み方なので、私も自然栽培は化学的な肥料、農薬を使わない農業だとイメージしていました。実は「自然」と「栽培(自然ではない人工的な行為)」は単純に繋がらないのです。
人工である田畑は、自然に任せると林に戻っていきます。人の手が入ってはじめて人のための作物が採れるようになります。自然循環系システムを田畑に再現することによって、栽培する(人工物である作物を植えて育てる)ことが「自然栽培」の定義です。(JAはくい 2024年自然栽培地域コーディネーター講座資料より)
川を挟んだ今昔の対比

昔は川の左側のように、山、里山、民家、田畑、川、海の間の水、ミネラル、養分などの循環が人の営みによって自然状態より高く維持されていました。
一方現在は、川の右側のように、土地はアスファルトやコンクリートで覆われ、山に
※自然栽培は、昔の里山の循環を田畑に再現することによって栽培することです。昔の里山は山菜の宝庫でした。
(JAはくい 2024年自然栽培地域コーディネーター講座資料より)
大切にしていること

自然栽培は、多種多様な微生物や昆虫、植物たちが生きること、そして死ぬことによって成り立つ栽培方法です。
その命の循環から生まれる「農産物」という命をいただきます。
命が商品であり、命を扱っています。
薬草栽培を始めるまで
薬草との出会い
伊那薬草研究会・小谷宗司先生

2022年2月、安曇野自然菜園スクール同期の方の紹介で伊那薬草研究会に初参加しました。
当時東京生薬協会理事長、小谷宗司先生(薬剤師・木曽郡大滝村)との出会いは必然だったのかも知れません。
人生初の薬草「松葉サイダー」

松葉と白砂糖に水を加えるだけ
2022年6月、伊那薬草研究会の定例会のテーマは薬用植物としての“松”!
松が万能にも近い効用をもっているとは露ほども知らず驚きでした。
その松を簡単に楽しく、美味しく活用するワークショップ“葉サイダーづくり”で薬草が以外にも身近であること、一昔前は普通に作られていたことを知りました。
薬草はこんなにも面白い!私も薬草を紹介したいと思うようになりました。
薬草栽培に挑戦しようと思ったわけ
漢方薬に救われた過去
私は西洋薬が身体に合わず、主に漢方薬を飲んで来ました。
その漢方薬の原料の約9割が輸入であり、その大部分が中国に依存。
何かのきっかけで漢方薬が手に入らなくなってしまう命に関わるリスクがあります。
それに対して国が薬草の自給率を上げようと様々な事業、支援を行って来たが、上手く行っていません。
その重大な理由は、薬草の販売価格が経費に合わないこと、栽培が難しいことです。
需要の高さ
国内の薬草生産量は減少しているものの、需要は旺盛です。
この20年で漢方薬の消費量は2倍になったそうです。
大学の医学部で漢方薬が必須科目になり、漢方薬と西洋薬を場合に応じて使い分けることが出来る医師が増えていることも要因のひとつです。
薬草大国だった長野県
長野県は冷涼な気候が薬草栽培に適しており、かつて薬草大国だったそうです。
現在の野菜で例えると、アスパラガスの県内生産と同程度の生産額があったとのこと。
しかし、長野県の薬草生産額は現在国内20位台に低迷しています。
一種の薬草を1軒または数軒でささやかに生産している程度で、高齢化により生産断念される薬草が後を絶たないという状況です。
それに対して、小谷宗司先生は70歳を超えて尚情熱を燃やして、長野県内に10ヵ所以上の薬草研究会を立ち上げ、長野県の薬草栽培を再興しようとしていました。
単細胞な私はその熱にほだされ、薬草栽培に挑戦しようと決意しました。
ご支援をいただいている方、機関のご紹介
生薬の販売関係は公開できませんが、下記は栽培方法の研究、活用方法の研究関係でご支援をいただいている方です。
- 元東京生薬協会理事長 小谷宗司先生(薬草栽培指導、種苗提供他)
- 株式会社 黒姫和漢薬研究所 代表取締役 狩野土様(松本薬草研究会の特別会員)
- 長野県薬草振興ネットワーク(2024年、会員登録)
- 自然菜園スクール 竹内孝功様(無農薬、無化学肥料栽培のアドバイザー)
- 安曇野薬草栽培協議会 (協議会の理事として参加、カノコソウの栽培)
松本薬草研究会 「美味しく楽しく未病を治す」
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